とある国のおとぎ話





 この男は言葉一つで、俺の反逆の心を芽生えるたびに打ち砕いていく。


 俺はこの男に銃を向けることはできない。



「……もう、下がらせていただいてよろしいでしょうか?」



 男は俺の反応に気を良くしたかのように、優雅に笑んだ。



「一色少佐。ご苦労であった下がりたまえ」



 威厳ある声に、最上級の敬礼をし、踵返す。


 最初に軍礼を見た時、ぼんやりと見事だなと思ったことがあったような気がする。


 そう思っていた敬礼が、今では自分もしっかり身についてしまった。


 敬礼も軍服も、この男にも慣れないのに、身についてしまった。


 紋章が描かれた重いドアを開ける。


 牢獄のドアの先には、やむ気配のない吹雪が映された窓。


 どこにいても、俺も彼女も牢獄の中。


 その中でしか生きられないのだ。

















< 6 / 63 >

この作品をシェア

pagetop