年下男子とリビドーと

「当ててあげましょうか」
「いっいらない」

拒否しているのにまた、にやりと不敵な笑みを浮かべながら、胸元を指差す。
だから、それやめて欲しい。
抗えなくなってしまうから──

「大丈夫ですよ。僕もう成人してるから、全然何したって犯罪でも何でもな……」

わたしは精一杯の抵抗で、指差された手をぺちっと払った。
多分、拗ねたような顔になってしまっている。

「かっわいいー」

成海くんが楽しくてたまらないというような、明るい声をあげた。
わたしは思わず、書類を手から滑らせてしまう。
グレーのマットが敷かれた床に、白い紙が散乱した。

慌ててしゃがみ込んだわたしに続けて、成海くんも屈む。
紙を拾いながら気付く。
わたしたち今、キャビネットの影に完全に隠れてしまっている。
他の人達からは死角だ。

「何動揺してんですか?」
「成海くんの声が大きかったの!」

「そういう冴木さんも声大きい」

気配を感じて顔を上げると、いつの間にか成海くんの顔が目の前にあって、人差し指がわたしの口元に差し出された。

「シッ」

小さく呟いて、その目は視線を逸らさない。

今、こんな至近距離で、見つめ合っている。
よく見ると、白く透き通るような肌に、睫毛が長くて、なかなか綺麗な顔をしている。
なんて、そんなことを考える余裕は奪われた。

成海くんの掌が、わたしの頬に添えられた。

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