年下男子とリビドーと

次の瞬間、頬をつねられた。
成海くんが吹き出す。

「ぷっ。すごい顔してましたよ!」
「えっ!?」

「口ぽかんと開いてるし。顔、赤いからもう少し隠れてたらどうです?」

そう残して、書類を床の上でトントンと揃えると、さっさと立ち上がり作業に戻って行ってしまった。

取り残されたわたしは、さぞかし間抜けだっただろう。
……この状態でひとり残して行くなんて……。
ひどいっ!


だって、びっくりした。

……キス、されるかと思った。


わたし、仕事中に一体何考えてるの?
しかも、紘希というものがありながら……。

紘希の屈託ない満面の笑みが、頭に浮かんだ。
急に罪悪感が、足元から立ち上ってくるようだった。


駄目。
成海くんにどんな思いがあろうと、あれは策略なんだから、乗せられちゃ駄目。
わたしは必死に自制心を働かせようと、身を引き締めた。
理性を取り戻そうと、全身を緊張させていた。

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