年下男子とリビドーと

「なんのつもり? 皆の前であんなこと……」
「あれ? 何か、まずかったです?」

口ではそう言っているが、目元が笑っている。
そりゃそうでしょ! 妙な誤解されたらどうするの!?

「……男の子がストッキングなんて言っちゃ駄目だよ! 下手しセクハラと取られかねない」

彼への非難は飲み込み、わたしの精一杯の大人の対応を無下にして、彼はにやりと不敵な笑みを浮かべる。

「またまた。俺と変な関係だと思われたら困る?」

何を、言ってるの?

礼儀正しい子だと思ったのに『俺』とか、タメ口とか……
変な関係って……わたしと?

彼の思い掛けない言葉に動揺を隠せなかった。
狐につままれたような顔をしていたのだろう。

「……今。揺さぶられてますよね。ここ」

彼はわたしににじり寄り、胸元を指差した。

バイトや派遣はほとんど帰ってしまったが、社員はまだ残っているので、その視線がこちらに集中し始めている。
わたしは耐えられず叫んだ。

「……大人をからかうのもいい加減にして!」
「僕も、成人ですけど」

「まだ学生でしょ!」

頭の中で、警告音が鳴っている感覚がした。
吐き捨ててその場を離れようと足を踏み出すと、今度は成海くんに手首を掴まれた。

「ドキドキしませんか。僕はさっき、ドキドキしました」

今度は真剣な顔付きに変わり、わたしをじっと見据えた。
その手を振り払い、全力で逃げた。

挨拶すら出来なかった。全く余裕を持てなくなってしまった。
あんな強引な奴、初めて会った──

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