願うは君が幸せなこと
8


この日、仕事が終わったら開発部に行こうと決めていた私は、残業しなくて済むように今日一日のスケジュールを頭の中で何度も考えていた。

開発部にいく理由は、月宮さんに会いにいくためではない。

諦めたくないと思ったものの、どうすればいいのか数日間迷っていた。
どうして月宮さんにキスをされたのか、ハッキリわからないからだ。

私に好意を持ってくれているからだとしたら、あんなことをされて多少顔を合わせづらいとはいえ、迷わず自分の気持ちを伝えにいくだろう。
だけど間違いなく私は聞いたのだ。月宮さんには彼女がいる。

……どうしても何かが釈然としなくて、迷ってしまう。

だから、決めた。
開発部に行って、咲野さんと話をしようと。

今日は高めのピンヒールを履いてきた。メイクもいつもより時間をかけた。
こうやって背筋を伸ばして自分を演じていれば、完全に打ちのめされても涙を堪えられる。そんな気がした。


「瀬名さん、この会社の今までのデータってどこにあるか知ってますか?」

創くんがとある企業の書類を持って近付いて来た。

「どれ?……あー、これは資料室にしまってあるかも」

「あ、そうなんですね。じゃあちょっと行ってきます」

そう言った創くんを見送ろうとして、棚で埋め尽くされたあの部屋の中から創くんが目当てのものを見つけ出せるか、心配になってきた。

「待って、私も行く」

パソコンに向かい素早くデータの保存をしてから立ち上がり、創くんと一緒に四階へと向かった。

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