もしもの恋となのにの恋

酷い男

「秋人、ごめんね。・・・待った?」
俺は少しそわそわしている井伏夏喜(いぶせなつき)をそれとなく見つめ見た。
へぇ・・・。
夏喜は俺と目が合うとぎこちなく微笑んでもう一度、小さな声で『ごめんね』と呟いた。
それに俺は『大丈夫』と答え、夏喜の珍しいその姿を凝視した。
それに気付いた夏喜が僅かに頬を赤らめる。
「ワンピース・・・似合ってるね」
俺は無感情にそう言って、できるだけ自然に見えるように笑んでみた。
自然に笑むことを意識している時点で俺は本当の意味で笑えていない。
「茶化さないでよ。私がワンピースとか本当に似合わないでしょ?」
夏喜は早口にそう言うと苦い笑みを満面に湛え、恥ずかしそうに瑠璃色の鮮やかなワンピースの裾をパタパタと意味もなく叩きはじめた。
「・・・茶化してなんかいないよ。本当に似合ってる」
それは本心からだった。
本当に似合っている。
俺は茹でダコのように真っ赤になった夏喜を少し、面倒に思った。
もしも、千鶴なら・・・。
そんなことを心の内に思う俺は酷い男だ。
大丈夫・・・。
自分が酷い男と言うことは十分に自覚している。
その分、質が悪いと言うことも・・・。
俺は茹でダコとなった夏喜と共に今日のデート先へと向かった。
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