もしもの恋となのにの恋
デート
水族館は休日の午前中と言うこともあり少し混んでいた。
俺は少し混んでいる自動券売機で夏喜の分のチケットも買い、それを無愛想に夏喜に手渡した。
夏喜は慌てた様子でどこかのブランドバッグの中から同じブランドの長財布を取り出した。
「いいよ。俺が誘ったんだから」
俺の言葉に夏喜は『でも』と呟いたが俺はそれを無視して夏喜の細い手首を自分の方へと手引いた。
俺に手引かれた夏喜はよたよたとしながら寄って来てその頬を瞬時に赤らめた。
面白くない女・・・。
俺は心の内でそう呟き、無理に笑んでみた。
それを見た夏喜が一瞬、固まった。
俺は本当にたまにしか笑わない。
それもほとんどが作り笑いだ。
夏喜はそのことを知らないし、どの笑みが本物かもわからない。
俺が作った笑みを夏喜は本物だと思っている。
俺の本物の笑みを見分けられるのは千鶴と死んだ忍くらいのモノだ。
「行こう」
「う・・・うん」
俺の促しに夏喜はあからさまに瞬いた。
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