もしもの恋となのにの恋
「・・・千鶴」
聞き慣れた声が私の名前を呼んだ。
その声は掠れていたし小さかったけれど、ちゃんと私の耳に届いた。
私は声のした方へと目を向け、少し驚いてまた笑った。
私は無意識のうちに手も振っていた。
私の視線の先には恋人繋ぎをした秋人と夏喜の姿があった。
微笑ましいな・・・。
そんなことを思っていると秋人が夏喜の手を呆気なく手放した。
秋人のその様子に私は違和感を覚えた。
いや、秋人だけじゃない。
夏喜の様子も変だ・・・。
秋人はどこか不機嫌そうで夏喜はどこか悔しそうな表情をしている。
なぜ、二人がそんな表情をしているのか私にはわからなかった。
けれど、それを二人に聞くのは憚られた・・・。
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