もしもの恋となのにの恋
電話
千鶴は本当に馬鹿だ・・・。
何であんなヤツに会いたいと思うのか俺にはわからない。
俺と千鶴は小学校に上がる前からの幼馴染みでお互いの気心はよく知れている。
それでもわからないこと、知らないことは多い。
事実、今だってそうだ。
千鶴はなぜ、浅野葵に会いたいと思う?
俺は何度考えても答えの出ないその疑問にイライラしはじめていた。
いや、そのイライラは千鶴から話を聞いたその瞬間からはじまっていた。
そんなことを思っている時だった・・・。
枕元に置いていたスマホがブーブーと震えだした。
誰だ?
こんな夜中に・・・。
俺はスマホの液晶画面に表示されたその名前に少し、たじろいだ。
仕方がない・・・。
「・・・もしもし」
俺はその電話を無視せずに出ることを選んだ。
正確に言うのならば、無視することができなかった。
本当は無視をしたい相手なのだが・・・。
俺は電話越しの相手が答えて来るのを静かに待った。
「・・・もしもし?悪いね、こんな時間に。・・・今、大丈夫かな?」
電話越しのその相手の口調は相変わらず柔らかなものだった。
俺はベッドに横になったまま、その電話越しの相手と会話をすることを決めた。
「・・・大丈夫です。・・・用件は千鶴と浅野のことですよね?」
俺は相変わらず口調がキツい。
・・・大丈夫。
そのことに関しても自覚をしている。
だがその分、俺は質が悪いのかも知れない。
「・・・そう。・・・秋人はどう思った?」
・・・どう?
それは俺が聞きたいことだった。
「じゃあ、宮原さんはどう思います?」
俺は吐き捨てるようにそう言って呼吸のような溜め息を吐き出した。
本当に俺は嫌なヤツだ・・・。
電話の相手、宮原司は千鶴の彼氏だ。
宮原さんと千鶴は来年、結婚する。
全く、めでたいことだ・・・。
「千鶴が望むのなら会った方がいいと俺は思う」
宮原さんがそう答えるであろうことはわかっていた。
それでも俺はその問いを宮原さんに投げかけた。
本当に俺は嫌なヤツだ・・・。
俺は本当に小さな声で「そうですか」と呟いて何もない真っ白な天井に視線をゆらゆらと泳がせた。
「・・・秋人はそうは思わないんだろう?」
電話越しの宮原さんの言葉に俺は思わず吹き出した。
そんなこと、思うはずがないだろう?
俺はそこまで出かかっていたその言葉を何とか飲み込み、目を閉じた。
それにより訪れた暗闇は本当に心地のいいものだった。
「千鶴の側にいるべきは・・・」
「・・・そろそろ切ってもいいですか?・・・俺、ちょっと用事があるんで」
俺は宮原さんの言葉を遮り、根も葉もない嘘をぶちまけた。
本当は用事なんて何一つもない。
「・・・そう。ごめんね。時間を取らせて」
そう言った電話越しの宮原さんは少しばかり不服そうだったが俺の言葉を責めることなく受け入れてくれた。
相変わらず宮原さんは優しい。
俺と宮原さんとじゃ何の比較対象にもならない。
そんなこと、もうずっと前から知っている・・・。
なのに・・・だ。
「いえ。・・・それじゃ」
俺はそれだけを口にし、宮原さんの言葉は何一つ聞かずに電話を切ってしまっていた。
それは思考よりも体が先に動いた瞬間だった。
俺は手の内で薄暗くなったスマホの液晶画面をただ、見つめていた。
これでいいんだ・・・。
俺は心の内でそう呟き、手の内で真っ黒になったスマホの液晶画面を改めて見つめ見た。

< 4 / 105 >

この作品をシェア

pagetop