もしもの恋となのにの恋
俺に押し倒された千鶴は今のその状況をうまく理解することができていないようだった。
あえてそれを千鶴の言葉で言うのならば『なぜ、秋人は私なんかを押し倒したのだろう?』だろうか?
俺は努めて無表情を装った。
千鶴に今の俺の心情など悟って欲しくない・・・。
「・・・秋人?」
千鶴は小さな声で俺の名前を呼んだ。
俺はそれに返事を返さなかった。
本当はもっと俺は千鶴に俺の名前を呼んで欲しいし、俺はもっと千鶴と話していたい・・・。
それでも俺は返事を返さず、相変わらず無表情を装っている・・・。
「・・・何か言ってよ」
千鶴は今の状況に堪えかねてかそんなことを口にした。
仕方ない・・・。
「・・・千鶴のその『好き』は『男として』じゃないだろ?」
俺の問いに千鶴はゆるゆると首を横に振った。
それを見ても俺は無表情を貫いた。
そうでもしなければ俺の理性は崩壊してしまいそうだった。
例え、それが嘘でも・・・だ。
「・・・嘘、吐くなよ」
俺は吐き捨てるようにそう言って心からの冷笑を湛えた。
嘘など吐いて欲しくない・・・。
それにこれ以上の嘘は千鶴でも許せない・・・。
許せる自信が俺にはない・・・。
もしも、これ以上の嘘など吐かれたら俺は・・・。
俺は床ドンをする感じで千鶴を押し倒していた。
だが、俺は特に千鶴を押さえつけてはいなかった。
だから千鶴は逃げようと思えば逃げられる状況だ。
だが、俺は千鶴を逃がさない。
そう、絶対に・・・。
俺が身動ぎをするとベッドが軋んだ。
俺はそっと千鶴の髪に触れた。
千鶴の髪はサラサラとしていて綺麗だった。
それにまた欲情させられた。
触れるべきではなかったと心の内で反省をする。
「千鶴の俺を思うその『好き』は『男として』じゃない。・・・バレバレの嘘なんて吐くなよ」
俺は改めてそう言って小さな溜め息を吐き出した。
期待もできない嘘など嬉しくもなんともない・・・。
「・・・そんなこと・・・ない。・・・私はずっと秋人のことが・・・」
「黙れ」
俺は千鶴のその言葉をきつい声音ときつい言葉で遮った。
そんな俺を千鶴はどう思っただろうか?
だが、俺はそれ以上の言葉を聞きたくなかった。
それはそれ故の行動だった・・・。
俺は本当に本当に千鶴のことが好きなんだ・・・。
だから、どうか俺たちの関係を・・・縁を・・・繋がりを・・・絆を壊すようなことはやめてくれ・・・。
俺は心の内で誰かにそう懇願した・・・。
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