もしもの恋となのにの恋
恋人
「おはよう、秋人」
駐車場で不意に声をかけられた。
その声の主は今、一番会いたくない人物だった・・・。
俺は意を決してその声の主の方を振り返った。
「・・・おはようございます。・・・宮原さん・・・」
俺のぎこちない挨拶に宮原さんはふふっと小さな笑い声を漏らし、笑った。
俺はそんな宮原さんを当然のことながら直視することができなかった。
なぜ、宮原さんがここに?
そんなこと、わかりきっている。
宮原さんは仕事に行く前に千鶴に会いに来たのだ・・・。
そして、俺と駐車場で鉢合った・・・。
それもしかもまだ夜が明けきらない早朝だ・・・。
本当に間が悪すぎる・・・。
「・・・あの・・・宮原さん・・・」
「秋人、今日は暇?」
宮原さんは意図的に俺の言葉を遮った。
俺はそれにたじろいだ。
普段の宮原さんならそんなこと、絶対にしない・・・。
俺は小さな声で『はい』と返事をした。
適当に用事を言って嘘を吐けばよかった・・・。
そんなことを不意に思う。
だが、今の宮原さんにはそんな嘘、通じないだろう。
それ以前に今の宮原さんはそれを言葉なく制した。
それだけの覇気を宮原さんは纏っていた・・・。
逃げられない・・・。
心の底からそう直感した。
不意に千鶴の顔が脳裏を掠めた。
千鶴は今、眠っている・・・。
俺は千鶴に今日は会社を休み、病院に行くように言って部屋を出た。
千鶴は寝惚け眼で俺を見つめて小さく頷いた。
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