もしもの恋となのにの恋

「やっぱり・・・そうだったんだ」
宮原さんは無感情な小さな声でそう呟くとゆっくりとカーステレオへと手を伸ばした。
少ししてカーステレオから流れてきた曲は本当に懐かしいものだった。
嗚呼、本当に懐かしい・・・。
その歌を歌っているのは千鶴が好きなアーティストだった。
俺も千鶴の勧めでそのアーティストを好きになり、よくそのアーティストの曲を聞いていた。
けれど、俺はいつからかそのアーティストの曲を聴かなくなっていた。
まるで何かから逃れるように・・・。
「夏喜ちゃんは・・・千鶴に嫉妬していたのかな?」
宮原さんの問いに俺はコクリと頷いた。
それを見てか宮原さんは俺に質問を続けた。
「夏喜ちゃんが千鶴に嫉妬した理由は秋人・・・キミかい?」
ドクン・・・。
そうだと言うように俺の心臓は大きく脈打った。
体はいつだって正直だ。
そんなことを俺は心の内で呟いた。
「・・・俺のせいで千鶴はあんな目に・・・。俺が千鶴を好きになっていなければ千鶴はあんな目に遭わなくてすんだのに・・・」
嗚呼、苦い・・・。
俺はその苦い何かを息と共に体外へと吐き出した。
「・・・秋人、それは違うよ」
宮原さんの言葉に俺は瞬いた。
一体、何が違うと言うのだろうか?
「秋人が千鶴を好きだったからと言って夏喜ちゃんが千鶴を階段から突き落としていい理由にはならない。そして、それを理由にしてもいけない」
確かにそうだ・・・。
宮原さんの言っていることは正論だ。
それでも俺は俺を責めずにはいられない・・・。
俺が千鶴を好きになっていなければ千鶴はあんな目に遭わなくてすんだ。
俺はそう思う・・・。
「・・・夏喜ちゃんも・・・苦しいだろうな」
宮原さんは静かにそう言うとふーっと長くて重い溜め息を吐き出した。
俺は宮原さんのその言葉の意味がわからなかった。
なぜ、夏喜が苦しいのだろうか?
そんな俺はひどく冷たい薄情な人間なのかもしれない・・・。
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