もしもの恋となのにの恋
憎い
ちょっと待ってくれよ・・・。
俺はざわつく心の内でそう呟いた。
宮原さんは一体、何を考えているんだ?
嗚呼、本当にわからない・・・。
本当に頭がおかしくなりそうだ・・・。
「千鶴は・・・千鶴は宮原さんを選んだんですよ?俺は千鶴にフラれた。俺と千鶴は・・・」
「清廉潔白・・・。そんなこと、わかっているよ?」
俺の言葉を遮り、そう言った宮原さんは静かに暖かく笑んでいた。
嗚呼、何かが恐ろしい音をたてて崩れ、壊れていく・・・。
俺は千鶴のことが本当に好きで本当に千鶴のことを愛している。
だから俺は千鶴の幸せを何よりも願って生きてきた。
自分の感情を圧し殺して・・・。
なのに・・・だ。
なのに俺が千鶴の幸せを壊そうとしている・・・。
そんなこと、俺は絶対に許さない・・・。
なのに・・・だ。
なのに俺が千鶴の幸せを壊そうとしている今のこの矛盾した現状を俺は一体どうやって解決したらいい?
俺は一体、どこで選択を間違えた?
嗚呼、叶うのならばその選択を間違える前に戻りたい・・・。
いや、もしも本当にそんなことが叶うのならば俺は忍が死ぬその前の時に行き、忍を生かしたい・・・。
そうすれば千鶴は傷つかずにすむ。
そして、千鶴は忍と結ばれて幸せになれるはずだ・・・。
なのに・・・だ。
なのに現実はそんなことなどできはしないし、そんな奇跡も起こらない。
嗚呼、本当に現実はいつだって残酷だ・・・。
「秋人は千鶴に手を出していないし、千鶴は俺を裏切ってもいない。・・・わかっているよ。それでも俺は千鶴との婚約を破棄しようと思う。千鶴の運命の王子様は俺じゃない。・・・ただ、それだけの理由だよ」
そう言って笑った宮原さんの横顔は妙にさっぱりとしていた。
それは完全に何かが吹っ切れた顔だった。
嗚呼、駄目だ・・・。
けれど・・・。
「・・・宮原さん、どうか考え直して下さい」
そう言った俺の声は本当に小さく掠れていた。
口の中は乾き、手は僅かに震え、心臓は破裂するんじゃないかと言うほど騒がしく脈打っていた。
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