甘く、温かいドリンク
「久々にあれが飲みたいな、キャラメルミルク」

私は電話の向こうからのその聞きなれない商品名に戸惑った。
そのコーヒーショップで私がたのむのは、決まって「本日のコーヒー」だ。

もうあと15分、君が車で私を迎えにくる。
私は、君の分のコーヒーも買っていくと伝えたのだ。
ビールや焼酎を好んでたらふく飲む君が、まさかそんな一風変わった飲み物を選ぶなんて。

私はキャラメルミルクがどんな飲み物かもわからず、コーヒーショップで本日のコーヒーとともに注文した。

なんとなしに、制作過程をながめていたが、温めたミルクにホイップクリーム、とどめにキャラメルソースがかかっていた。
恐ろしいことに、コーヒーショップの飲み物なのに、コーヒーは一滴も入っていなかった。
私は首をかしげながら、袋に入れてもらったドリンク二つを持って、君が迎えに来るいつもの交差点に立った。

見慣れた軽自動車が歩道に寄せて滑り込んでくる。古くていつもどこか調子の悪いクラウンも好きだったが、10万キロをこえてしまったこの軽自動車も好きだ。なにしろ助手席に座れば、君との距離が近い。ベルト鳴きがひどいが、君が大丈夫というのだから大丈夫なのだろう。
「おーまーたーせー!」
君がいつものようにおどける。しかし、声も目も疲れているのがはっきりとわかる。

キャラメルミルクを飲む君は、久々に嬉しそうに笑った。それも一瞬だった。

私の知っている、本当に嬉しいときの笑顔には程遠い。
もう何ヵ月あの顔を見ていないだろう。

「いこうか」

軽自動車は夜闇に紛れて進む。行き先はいつも通りのラブホテルだ。
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