名のない足跡

唇を噛みしめ、あたしは嗚咽を漏らす。


あたしが叫んでいる間も、そして今も、ウィンは一言も喋ってくれない。


「何っ…で、何も言わないの…?」


こんなの、八つ当たりだってわかってる。


ウィンのせいじゃない。


だけど、怒ってほしかったのに。



大きい声で、バカって怒鳴ってほしかったのに。


なのに、どうしてこういう時だけ、いつものウィンじゃないの?



あたしが顔をあげて、ウィンの表情を見た瞬間、また涙が溢れ出た。


「…っく、どうして、ウィンがそんな顔、するのっ…」


「…悪ィ。俺のせいで…」


「謝らないでよっ…!ウィンが謝ることじゃないっ…」


急に自分が情けなくなって、だんだん声が小さくなった。


そんなあたしを、ウィンは優しく抱きしめてくれた。


「俺…何も言えねぇけど…」


「…うん」


「泣けよ、気が済むまで」


その言葉だけで、十分だった。


それこそみっともないくらい、あたしは声をあげて泣いた。



―――ライト…



一度気づいてしまった想いは、一瞬にしてあたしを支配した。


どうしようもなく溢れる想い。






打ちつける雨が、執務室の窓を小さく揺らした。






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