名のない足跡

「…そんな顔すんなよ。全部知ってんだぜ」


「………!」


途端、俺は身構えたが、相手に襲いかかってくる気配はなかった。


「悪かったな。アズロとの会話、聞いたんだ」


…あの夜の話か。


俺は迷った末、口に出して聞いた。


「ルチル様に言わなかったんですか?」


「言ったところで、アイツは信じないさ。それに」


ウィンは一旦言葉を切って、俺を見た。



「心のどこかで、俺はあんたを信じてた」



…信じてた。


その言葉を、まさかウィンから聞くなんて思ってもいなかった俺は、驚きを隠せずにいた。



でもその言葉は、同時に俺を苦しめるものでもあった。


信じてもらえる価値なんて、俺にはない。


「それは…見当違いでしたね、ウィン」


「そうだな」


「…止めないんですね」


「止めてほしいのか?」


俺は、ぎゅっと唇を噛んだ。


じわり、と手のひらに汗がにじんだ。


「…全く、どうしたらそんなひねくれた性格になれるんですか」


「遺伝でね。…俺は、止めないぜ?」


「そっちの方が好都合です」




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