冷徹社長の秘密〜彼が社長を脱いだなら〜
やっぱり、勘違いしてたよね。まぁ確かにあれで話が成立していたんだから間違えるのも無理ないよね。

それにしても、どっちが本当の社長なんだろう?今はさっきとは違う優しい眼差しを向けてくれている。


本当に冷徹社長なら、たとえ捻挫させた罪悪感はあってもこうして、面倒をみるなんて言って私を自分の家にまで連れて行ったりなんてしない。

西原先生の言ったようにお金を払って口止めするはず。だとするとやっぱりこの優しい社長が素の部分なのかな。



「また考え事しているのか?難しく考えすぎなんだ。これが食べたいと思ったもの言えばいい。それとも何か、違うこと考えてたのか?」


顔を覗き込まれるように見られていることに、慌てて距離をとる。なんだよと少し拗ねた顔をする社長。


こんな少し子供っぽい表情もするんだと思うとますます、喜怒哀楽がはっきりしてそうに思えて冷徹社長が嘘のように思えるけれど、でも、さっき見たのは間違いなく冷徹社長。


「ふがっ。な、何するんですか?」


「人の話はちゃんと聞くこと」


今度は鼻をつままれた。ますます分からなくなる。どっちが本当??


意を決してそれを聞こうとしたのに「食べたいもの決まったか?」の社長の言葉とお腹の虫が同時になって、それどころじゃなくなってしまった。


「じゃあいいところに連れて行ってやるから楽しみにしていろ」


そう言ってエンジンを掛ける社長。私は、普通の話し方よりちょっとぶっきらぼうな言い方にまたドキっとしつつ、ハンドルを握る社長の横顔をジッと見つめていた。
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