アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)


ある夏の夕暮れ、客足も途絶えてほっと一息ついたとき、野球帽にパーカー、そしてデニムというありふれた格好の背の高い男性客が一人で店に入ってきた。

私の店は昭和の雰囲気を色濃く残した昔ながらの喫茶店で、今の若い人が好むようなおしゃれな店ではない。
めずらしいお客だなと思いながら、私は「いらっしゃいませ、お好きなお席にどうぞ」と声をかけた。


彼は店内を見回し、少し奥まった席を選んで腰掛けた。

しなやかな竹を思わせる長い手足は狭い喫茶店では少し邪魔になるようだ。彼は十秒ほどの間、居心地のよい姿勢を探していたが、やがてこわごわ椅子の背にもたれて足をテーブルの下に長くのばした。

私は彼が席に落ち着いたのを見計らって汲み置きのレモン水を置いた。


「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか」

彼はまず帽子を取って傍らに置いた。

その時にこぼれた金のつややかな髪、陶器のように白くなめらかな肌、紫とグレーがまじりあったような複雑な色の瞳にはっとした。

カガン人だ。

「Ah、ミルクコーヒーはありますか」


それは、私の父がカガン人の口に合うようにと考えたメニューのうちの一つで、濃くつくったコーヒーとホットミルクを合わせ、日本人には多すぎると感じるほどの砂糖とバターを入れたものだ。カガンティーに似てはいるが、これを注文するカガン人は少ない。


「はい、ありますよ」

「それと、ah……fluffy(やわらかい)……lightly……」

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