アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)


突然王子が体を起こしたので、リビングテーブルでいつのまにかうたた寝していた私もその気配に驚いて目を開けた。

彼は大きな瞳を見開き、自身の脇に手をやった。


銃を気にしているのだ。


私はその仕草の意味を一瞬にして悟ったけれど、あえて彼から目をそらして何も気がついていないふりをした。

王子は銃がまだホルスターにしっかりとおさめられているのを確認すると、少し落ち着きを取り戻し表情を緩めた。


リビングテーブルの上にはすでに冷え切ったカガンティーと、手付かずのクリスマスオードブルがおきっぱなしになっている。
テレビもつけっぱなしだ。
テレビからは深夜のバラエティ番組の無闇に明るい曲が流れている。王子はちらりとテレビに目をやり、フンドシ姿で現れた数人のタレントの姿にその神経質そうな眉をしかめた。

私は慌ててテレビを消した。これじゃまるで私が好んでこういう番組を見ていたようじゃないか。普段の私はバラエティはあまり……いや、たまに……見るけどね。


そのとき、部屋の中に低い音がかすかに響いた。

木造の家にはよくあることだけれど、これは家鳴りだ。夜がふけて気温がさがったことで木材が縮むときなどに鳴る。
彼は咄嗟に音の聞こえたほう、天井に目をやった。彼は木造の建物に慣れていないのだろうか。


「大丈夫、家が鳴っているだけ。古い家だから」

王子は少し警戒するように家の中を見回したが、そんな彼の緊張感をやぶるようにマフラーをはずしたバイクの音が遠くから聞こえてきた。

一瞬私も王子も動きを止め……そして王子は静かに息を吐いた。


どんな目にあったのかは彼に聞かなければわからないが、この一週間、彼は警戒心をとくこともできずに寒さと飢えをやり過ごしてきたのだろう。元々神経質そうな人だが、今はさらにその神経質がひどくなっているように見えた。
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