アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)


寝坊してしまった。


私は急いで身支度をしながら父の寝室だった部屋、現在は王子が使っている部屋にちらりと目をやった。



王子は昨夜、食事を済ませると私から救急箱と洗面台を借りて腕の怪我の消毒を始めた。その傷のひどかったことといったらなかった。おそらく私の店で自ら傷の手当てをしたあと、包帯を巻きっぱなしでろくに手当てもしなかった……いや、できなかったのだろう。
腕の傷は腫れあがって化膿していた。あんなに膿を出す傷口なんてこの年になるまで見たことがなかった。

彼の傷を目にして思わず小さな悲鳴をあげた私に、彼は小さく失礼、と言って傷口を見せないよう、私に背を向けた。

不躾な態度をとったお詫びの気持ちもあって、彼の手当てを手伝おうと申し出たが、さらりと断られてしまった。

彼曰く、「女性に見苦しいものを見せてはいけない」らしい。カガンの流儀なのだろうか。
彼は顔色一つ変えずにそのむごい傷口を自分で手当した。手慣れたやり方だった。


「どうしてそんなに包帯を巻くのが上手なの」
「士官学校で勉強します」

シカンガッコウ。

日本では聞きなれない言葉に、それが日本語であるにもかかわらず一瞬理解が遅れた。

けれど、それがいわゆる「士官学校」ならば、たしかに応急処置くらいは学ぶのかもしれない。士官は軍人だ。軍人の仕事には危険がつきものだろうし、応急処置くらいは知っていないといけないのかも。

< 58 / 298 >

この作品をシェア

pagetop