アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)


カーテンの隙間から冬の早朝らしいうすぼんやりとした光が差し込んでいる。
寒い。
もう少し寝ていたい。


あたたかい布団の奥にもぐりかけ、私ははっと目を開けた。
そうだ、起きなくちゃ。
うちには今、王子がいる。

様子を見に行ってあげなくちゃ。
ショールを羽織ってそっと寝室から出ると、リビングで王子がこちらに背を向けていた。
声をかけようとして、彼が上半身裸であることに気がついた。近寄っていいのか、それともいけないのか。一瞬考えたが、我が家はこのリビングを通らなければどこにもいけない作りになっている。黙って近づいて驚かせるのも嫌なので、私はソファに近づく前に彼に話しかけた。


「おはよう。よく眠れた?」

彼は少し顔を上げた。

「ええ。ありがとう」

彼は腕に負った傷の手当てをしていた。

「手伝おうか?」

私が声をかけると、彼は私の視線から傷口を庇うようにして横を向いた。


「どうしたの」
「汚いので。女性には見せられない」

私は苦笑した。
彼は紳士過ぎる。これでは今のような逃亡生活は普通の人以上に辛いに違いない。


「私は貴族のお嬢様じゃないし、普通の人なんだからそれなりの扱いでいいよ。初めて店にきたときみたいに気楽にね」

私は彼の正面に回ると、ソファの肘掛部分に腰掛けて彼の手にしていた包帯を取った。

「片手じゃ巻きにくいでしょ」
< 72 / 298 >

この作品をシェア

pagetop