アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)

自宅に通じるドアを開けた瞬間、王子がこちらを振り返った。
彼は私を見るなり少しバツの悪そうな表情を浮かべた。
テーブルの上には私が作っておいておいた朝食が冷え切って残っている。

眠れていないのか、彼の白い顔は一晩ですっかりやつれていて、目の下には青いくまが出来ていた。

「……すみません。せっかく作ってくれたのに」

私は首を横に振った。


「そんな。食べられないときもあるんだから無理しないで残して」


平静を装ってそう答えたものの、私の目には彼がひどく憔悴しきっているように見えた。病院に連れて行ったほうがいいように思われた。けれど、それはできない。


「少し温かいものをとるといいかもしれない」


私はポットに湯を沸かして紅茶を淹れた。
一瞬、カガンティーのほうがいいだろうかと迷ったが、バターを溶かしたカガンティーでは脂肪分が多すぎて余計に気分を悪くさせるかもしれない。結局私は普通の紅茶を出した。
彼は目の前に置かれた紅茶をしばらく見つめていたが、私の視線が気になったのか、やがてゆっくりとカップを口元に持っていった。

しかし、そのカップから上がる湯気が彼の顔に触れるか触れないかの所まで近づいた時、彼は突然強く眉根を寄せた。


あ、吐く……!
< 87 / 298 >

この作品をシェア

pagetop