理由
女が吸うような銘柄じゃないタバコをもみ消すと、私はその雑誌をまとめる事からはじめた。


孝利は、せいぜい三が日を過ごしたら帰ってくる予定だ。
五日か六日会えないくらい、しょっちゅうある事なのに、昨日東京駅で孝利を見送ってからは不安で仕方がない。

自分に予定がないからだろうか。
会社の後輩に、彼氏と過ごすお正月の予定を延々きかされたからくやしいのだろうか。

いまいち不安の輪郭ははっきりとしない。

雑誌を部屋の中央に集めてから、紐で結びやすいようにサイズごとにわけはじめた。
ファッション誌より高く積もった経済誌がなんとなく気に入らない。


孝利は今朝メールをくれた。ゆうべは久々の実家で寝心地が悪かったと言っていた。
弟夫婦と両親の住む家だから、上京して12年の独身長男にはやはり居心地悪いだろう。

彼の両親には、早く結婚しろとせき立てられている。
このご時世に、30でそんなに焦らなくてもいいように私には思える。


私と孝利は、結婚するつもりはない。
どちらも仕事がしたいからだ。
孝利は最近、出世コースに足を踏み入れたばかりだ。
私も地盤を固めている最中。
結婚は、ある意味社会的信用になるのかもしれないが、お互い仕事へのエネルギーをそれに回すほど余裕がない。

同棲だって、いざ乗り出したらやはり面倒だろうという意見で一致した。

だから私は孝利の家へ行った事もないし、孝利も私の部屋へ入った事はない。

デートは外。一緒に寝るならホテル。それ以上は踏み込まない。
私達に一番合っている距離だ。

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