もしも、もしも、ね。


「キミ、良く似合ってるねー。その服。」

「はぁ、どーも。」



自慢じゃないが、こんな言葉は先ほどからよく掛けられる。

ナンパという軽々しいもの自体私は嫌いだけれど、

それ以上に断らなきゃいけない理由があって。

それは、走り回る理由とほぼイコール。



「良かったらさ、俺たちと少し話さない?」

「いいでしょ?だって、他のやつらだって話してるし。」



そう、これ。

この男がただいま説明してくれました。

だから、私はにっこり笑って答える。



「3人とも客に捕まっておりますから、私が動かないと運営出来ないんですよねー。」



暗に「それぐらい見てわかんねぇのかこの野郎。」という意味を含める。

通じたのか、私の苛立ちに気圧されたのか、男達の顔は引きつった。

そして「すいません・・・」と蚊が遠くで鳴くような声で呟いたのをいいことに、

「ご注文は?」と仕事に戻る。

コーヒー2杯、なんてナンパ目的だったんだろう返答に「かしこまりましたー」なんて思い切り嫌味の笑顔を残して、

私は裏方に戻った。



「お疲れ、暁里。」

「なっちー・・・。」

「ホール一人はきついよね。」



戻った瞬間苦笑で迎えてくれる、友人なっち。

オーダー表を上に貼り付けながら、私は「まったくだ」とため息をついた。

まったく、走り回る白雪姫だなんて聞いたことがない。

え?それって私が世界で始めてだってこと?きゃ。

・・・笑えない。



「でも、こうなった以上私たちも暁里が頼りだからさ。」

「了解―・・・。」



ごめんね、と言わんばかりに眉根を下げるなっち。

その手には、しっかり注文の物が乗ったお盆。

それを見て何度目かとも分からないため息をついた私に、「次はホール変えようね。」となっちがフォローしてくれた。

でもそうしたら客減っちゃうんだよね、そう答えて私は裏方の部屋を抜ける。


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