もしも、もしも、ね。


私は、ゆっくりと目をつぶった。

私を今だ蝕むトラウマを、口にするときが来た。



「私ね。」



言うと決めたのに、思わずそこで息を呑んでしまった。

自分の声が、自分でも予想外に震えていたから。

ばれたくなくて、ばれてるけど、それでも大きく息を吸って吐いた。



「そのとき好きな人がいたの。」

「・・・。」

「それは、陸斗じゃなくて、名前も知らない男の子。

その人サッカー部に入っててね。

よく試合で私の中学校に来てて、見かけて、一目ぼれ。

ボールを追いかけるその姿が大好きだった。

先輩、ってことだけ分かってた。」



私の初恋。

どうすればいいか分からなくて、

けれど少ない人脈と、人間観察能力で情報を集めた。

私が知ったのは、顔、学校、それと先輩だっていうこと。

選手同士でも応援でも様々な名前が飛び交うサッカーの試合では、

彼の名前なんて特定できなかったけれど。

それでも、見ているだけで幸せだった。



そんなとき、私はサッカー部の友人に呼び出された。

よくわからないまま向かった校舎裏には、陸斗がいて。

首を傾げる私に、彼は「好きです」と言った。



―――私は陸斗から告白された。



陸斗もサッカー部で、よく試合に来る私が気になっていたのだと言った。



「私、告白されたのなんて初めてで。

断り方なんて知らなくて、半分押し切られる形で陸斗と付き合うことになった。」

「好きだった男はどうなったんだよ。」

「最初はまだ好きだったよ?

でも陸斗があんまりにも真っ直ぐに私のところに来てくれるから、

こう・・・揺れる乙女心っていうかね?」



軽い女。

鼻で笑うようなその言葉を否定することも出来ず、

私はスルーして話を続けた。


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