君じゃなければ
………とはいえ、いつまでもこのままでいいわけがない。
私がイジメに合うのは別にいい。
私が我慢すればいいだけの事だから。
困るのは……
この事が中等部の郁に知られてしまう事。
姉がイジメられてるだなんて知ったらどう思うだろうか。
いい気は…しないだろう。
私が姉で恥ずかしいって思ってしまうかもしれない。
せっかく郁は学校に馴染んでいるというのに、このままでは……
私の存在が…
また郁の足かせになってしまう。
それだけは何としても防ぎたい。
何としても………
私はグラウンドに視線を移した。
高等部と中等部の共同のグラウンド。
グラウンドを挟んだ向こうの建物が中等部になる。
近いようで遠い。
『どうしたの?ぼーっとして。』
『あっ…、いや別に。』
『櫻田さんってさ、たまに中等部の方見てボケーッてしてるよね。』
『そうかな。』
『ねぇ、中等部に気になる子でも見つけた?そうなの?』
『ええ!?違うよ!』
『あっやしいなー。四組の後藤君にだって、これっぽっちも興味なさそうにしてるのに。』
『後藤君なんて知らないし。』
『え!?まだそんな事、言ってんの!』
四組の後藤君。
小学生でもないから、名札なんかないし。
名前だけが一人歩きして、顔が全く分からない。
興味がないのも事実だけど。
『じゃあ今日体育の授業あるから教えてあげる!』
『あー…いいよ別に。』
『そんな事ばっか言わないの!案外、好みだったりするかもしれないし。』
他人ごとだからだろうか。
飯田さんは自分の事のようにはしゃいでいた…ように見えた。