君じゃなければ
飯田さんから忠告を受けてから数日ー………
『痛ッツ』
現状は良くなるどころか、日ごとに悪くなる一方だった。
最初は風当たりが強かっただけだったのに…
ひそひそ聞こえるか聞こえないかくらいの声で悪口を言ってきたり、
授業中、消しゴムのカスを飛ばしてきたり、
今日は上履きにガビョウが仕込まれていた。
あまりにも幼稚で…
小学生かっ!
って言いたくなった気持ちをグッと堪えた。
小学生でもこんな幼稚な事はしないだろう。
四組の後藤君とは何の接点もないのに……。
何故ここまで私を邪険にするのか分からなかった。
『ちょっと!やだ!血が出てんじゃんっ!』
私の手の指から血が出ているのを見て、飯田さんが真っ青な顔をする。
イジメ…にあってから、唯一変わらず接してくれるのは飯田さんだけだった。
『保健室行こう!手当てしないと!』
『大丈夫だよ、これくらい。ちょっと触っちゃっただけだし。』
『触っちゃっただけって…ちゃんと消毒しとかないと!』
飯田さんは私の腕を掴んで、グイグイと引っ張った。
不謹慎かもしれない。
けれど、こんな風に他人から心配してもらえるなら…
悪い事ばかりでもないなって思えてしまう。
『失礼しまーっす!あれ?先生いないのー?』
連れてこられた保健室に保健医の姿はなかった。
『じゃあ、私がテキトーにしちゃうね!』
『えっ!?あ、いいよいいよ!大丈夫だから!』
飯田さんが何か得体の知らない薬品を手にもつのが怖かった。
『えー…。じゃあ絆創膏だけはしとこ、ね?』
『うん…それなら。』
保健室にある椅子に腰掛け、飯田さんに手を出した。
絆創膏を貼るだけ。
それなのに飯田さんは手間取っていた。
不器用…な人なのかもしれない。
手先が不器用。
でも………
『はい!出来たー!』
『…………』
『ん?どうしたの?』
そんな不器用ながらも、私の為に絆創膏を貼ってくれたその気持ちが…
『ありがとう。』
嬉しかった。