君じゃなければ

子どもの時にかけられた言葉は

呪いのように

今でも私を縛り付ける。


“貴女はしっかりしてるもの”


母の願いがそうならば

しっかり者でなければならないと

そう思って疑わなかった。

母と離れた今でも

今度は弟の郁の為に


“しっかり”しなくてはと


自分で自分に言い聞かせる。



『“姉さ………”』


『大丈夫、大丈夫。』



大丈夫。

郁がいてくれるなら

私は何にだって耐えられる。

郁を安心させる事が出来るなら

辛い事も悔しい事も

嬉しい事だって…


無かった事に出来る。


私は自分でも気づかない内に

作り笑顔で塗り固めた

仮面をかけていた。


郁は何か言いたそうな顔をしていたが

ぐっと言葉をこらえ、

その代わりに


キラキラと輝く笑顔を私にくれた。



その笑顔は同じ作り笑顔でも

比べ物にならないくらい綺麗で

直視する事が出来なかった。
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