クールな上司とトキメキ新婚!?ライフ

「一緒に帰ろう?」

 柏原さんに誘われて、キリのいいところで仕事を終わらせた。

 振り返って見上げれば、まだ残っている人がいる灯りの数々。
 秋口の夜風は思いの外冷たくて、肩をすくめると彼は何も言わずに手を繋いでくれた。


 地味な私と、輝き続ける彼。
 両極にいる私たちを、行き交う人が見る。


「気にしないの」

 俯いて歩く私から、彼は眼鏡を奪った。


「今日は、結衣ちゃんの部屋で過ごしたい」

 彼氏ができたのは、初めてじゃない。
 でも、“そういうコト”を致した経験はない。


 本当に好きな人とじゃなきゃしたくないからだ。いざそういう雰囲気になった時、相手の下心が見えてしまって冷めるのがほとんどだった。
 どうせシたいから言い寄ってきたんでしょ?優しくしたのも、食事をご馳走してくれたのも、すべてこの瞬間を手に入れるためだったんでしょ?……って、言いたくなってしまうのだ。

 全員がそうだったかはわからない。だけど、好きかどうかを尋ねれば「好きだよ」って返されるに決まってる。本人を前にして、特に喧嘩をしているわけでもないのに「嫌い」と言う人がいるとは思えないからだ。


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