【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫
番外編 episode:takumi
※ このエピソードは拓海が骨折している間の彼目線です ※

*************

「おう、いつもわりぃな……」
そう言って、佳代を部屋の外に追い出す。

じっと一瞬自分を見つめる表情が、
毎回何か言いたげだ。
ふと、その頬に触れたくてたまらなくなる。
ポケットに入れた指先を一瞬強く握りしめて、
「じゃあ、また明日……」
そう言って佳代が部屋を出ていく。

送っていこうかとも思うが、
毎回、まだ早いですから大丈夫です、
と佳代は言う。

まあ、まだ8時を回ったばかりだ。
「……気を付けて帰れよ?」
何かあったら電話しろ。
そうドアに体を凭れかけさせて言うと、
にっこりと笑みを浮かべる。

ふわり、と残り香を残して、彼女は俺の部屋を立ち去る。

それを視線で見送って。
パタンと戸を閉めて、
突っかけていたサンダルを脱いで部屋に戻る。
室内に、先ほどの佳代の髪の香りが残っている気がする。
「はぁぁぁぁぁぁぁ……」
今日も何とか乗り切ったな。
と小さくため息をつく。

ドスドスと足音を立てて、台所に戻り、
ウイスキーを出して、ロックグラスに氷と共に注ぐ。
それを持って、ちゃぶ台の前に座り込む。

「あ゛~~~~~~~~~~」
ガシガシと自らの髪を掻き毟る。

「……あのバカ、こっちの身にもなってみろ」
思わず愚痴が漏れる。
灰皿を引き寄せて、一本火をつける。

仕事上がりだからだろうか、
佳代はうちに来る前に、必ずシャワーを浴びてくるらしい。
仕事中は結んでいる長い絹糸のような長い髪を、
柔らかく、その華奢な体にまとわせて、
動くたびに、ふわりふわり、
と洗い立てのシャンプーの匂いがする。
清潔な、それでいてどこか誘うような香り。

「…………ったく」
ウイスキーを煽る。
最近すっかり自分の中に、
望んではいけない、
恋情と本能を自覚していた。

望んではいけない、と思いながら、
伸びそうになる指先を何度握りしめているか、

「……どうせあいつは自覚もしてないんだろうけどな」
自分の存在が、どれだけ男を煽っているかなんて、
多分、何一つわかってねぇ。
< 201 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop