マイノリティーな彼との恋愛法


しっかりタレ漬けされたお肉にはゴマが振ってあって、口に入れるとほんのりニンニクの香りもした。
なんかものすごく精がつきそう。
そうか、もしかして病み上がりには一番効く弁当なのか?


お肉を割り箸でつまみ上げ、それ越しにヤツの表情をチラッとうかがう。
彼は私の言葉を待つように、でもこれといった緊張感を出すことはなくこちらを見ていた。

なんていうか、淡々としてるし飄々としてるのよね。
だからなのか、感情が読み取れない。
隠してるわけじゃなさそうだから、元々のそういう性格から来る振る舞いや表情なのだろう。

それでかな、何を考えてるのか気になり始めたのは━━━━━。


「私ね、神宮寺くんのドコが好きって、たぶんちゃんと答えられないの」

「え?」


眉を少し上げて不思議そうに目を丸くした彼に、ほんのちょっと申し訳ない思いを抱きながら続ける。


「メガネの弁償で食事に何度か行って、全部払い終わって。もう会えなくなるって思ったら寂しくなってさ。また会いたいって思っちゃったんだよね。具体的にここが好きっていうのは無いの。強いて言うなら笑った時に目が三角になるところってくらい」

「さんかく?」

「あ、こっちの話。それと、挨拶がしっかりしてるところと、明らかに性格が普通じゃないところ」

「褒められてるんだか貶されてるんだか」

「好きなところって言ってるでしょ?」

「はあ……そうですか」

「だけどね」


言いかけて、グッと喉から言葉が出てこなくなる。

うおおおおおお猛烈に恥ずかしい。
でも言わないと。だってヤツだって言ってくれたんだから。


「あのー……その、まあ、それなのにものすごく……好きなんです、神宮寺くんのこと。不思議なことに」


言ってしまった!好きだと言ってしまった!

ヒィ〜!と顔を真っ赤にして下を向いていると、神宮寺くんが「ありがとうございます」と口元を緩めた。

あ、嬉しそうな顔した。
そういう顔出来るんだ、これもプレミア認定。


「俺もよく分かりません、春野さんのドコが好きかなんて。ハムスターみたいな食べ方をするのは見ていて好きだなと思いますけど。基本的にあなたは豪快でお節介で口うるさくて素直じゃないですよね?」

「早速ケンカしたいの?」

「すみません、悪口じゃないです」


どう考えても悪口にしか聞こえないことを言ってのけた神宮寺くんは、あっという間に食べ終わった弁当のフタをしめながら微笑む。


「だけど、俺もまた会うための理由を探してました。牛タン定食を極定食にしたらもう会えなくなるなぁと思って、躊躇ったりしましたし。そういう感情が全てなんじゃないですか。また会いたいと思った女性は、春野さんが初めてなのでよく分かりませんけどね」


…………そういえば、風花ちゃんがいつか言ってたっけ。
恋愛は一瞬のときめきとフィーリングだって。

まさか、これのこと?


< 165 / 168 >

この作品をシェア

pagetop