ケダモノ、148円ナリ
「言えませんっ。

 あの~、やっぱり帰りませんか?」
 私、簡易トイレとか嫌です、とソファに座り直して言うと、貴継は舌打ちをし、

「余計な電話で正気に返ったな」
と言ったが、自分も此処に泊まる気は失せていたのか、立ち上がり、大きく伸びをしていた。

「ついでに温泉にでも入って帰るか」
と言う貴継に、

「混浴は嫌ですよ」
と言うと、

「大丈夫だ。
 家族風呂だ」
と言われる。

 いや……全然大丈夫じゃないですよね、それ。

 温泉も遠慮しようと、荷物を手に帰ろうとしたが、
「待て、明日実」
と呼び止められる。

 立ち上がろうとした肩を押さえられ、
「さっき買ってやったの貸せ」
と言われる。

 水族館のマークの入ったビニール袋から、イルカを出して渡すと、貴継は、阿呆か、と言い、同じ袋から、イルカのリングを出してきた。

 ソファに座ると、それを明日実の手にはめ、キスしてくる。

「行こう」
と貴継は立ち上がった。
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