ケダモノ、148円ナリ
「私も嬉しかったなー。
 高校生のとき、顕人がくれた、今思えば、オモチャみたいなネックレスとか」
と言い出す。

 うわー。
 なんとなく知ってはいたけど、鏡花さんがおにいさまとのことを口に出すのは初めてだ、と思っていた。

 少し年が離れているので、ぼんやりとは知っていても、なんだか遠い世界の出来事だったから。

「寝かしつけといたよー」
とご主人が顔を出す。

「ありがとう。
 貴方も一緒に呑む?」
と振り返り、鏡花は言っていたが、ご主人は穏やかに微笑み、

「いや。
 女同士ゆっくり呑みなよ。

 おやすみ。
 明日実さん、ごゆっくり」
と言って、去っていった。

「いいご主人ですよねー。
 でも、聞こえてなかったですか? 今の」

 顕人もよく此処へ来ていると思うのだが、と思いながら言うと、
「いいのよ。
 知ってるから。

 だって、昔のことでしょ。

 今、なんとも思ってないから、平気で言えるし。
 家にも呼べるのよ。

 それに、顕人という失敗があったから、今があるって言うかね」
と鏡花はサバサバした口調で言っていた。
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