【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。


「し、しっかりしてる私の方が……いい?」


不安になってそう尋ねると、那月君は首筋に埋めた顔を離し、頰にキスを落としてくる。

ま、また不意打ちっ……。


「しっかりしてる先輩も好きですけど、そのままの先輩は、たまらなく可愛いです。どっちの先輩も大好き」


そんなこと、言われたら……。お世辞でも嬉しくて、胸の奥にじんわりと温もりが広がる。

私も那月君の背中に手を回して、同じように抱きしめ返した。


「わ、私も」


那月君の匂いがして、落ち着く。

胸にすりすりと頰を摺り寄せると、頭上で那月君がごくりと喉を鳴らした。


「……すみません」


え?

那月君は、抱きしめる腕を解いて、自分から私を離した。

無くなった温もりに、寂しくなって那月君を見つめる。


「このままだと抑え効かなくなりそうなんで、風呂入ってきますね」


抑え?

それって、もしかして……。

意味がわかって、かあっと顔が熱を帯びた。那月くんだって本当は、そういうことがしたいんだ。

私、那月君に我慢させてる?


「そんな寂しそうな顔で見つめないで。すぐ戻って来ます」


そう気づいたけれど、今那月君を誘う勇気なんて私にあるわけがない。
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