【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。


ズボンもぶかぶかで、一生懸命ヒモを縛る。限界まで頑張って引っ張って、きゅっと結んだ。


よし、これでズレないかな。

でも、袖もぶかぶかだ……。折っておこう。

そういえばすっぴんを見せるのも初めてだ。


脱衣所から出て、リビングへと戻った。



「那月くん、お風呂ありがとう」



那月くんは、ソファに座りながらパソコン作業をしていて、私に気づいたのか視線をこちらへと移す。

何故か固まったように動かなくなった那月君の頰が赤いのは、気のせいだろうか。


「那月君?」

「……先輩、ぶかぶか」


ゆっくりと那月君に近づいて、私も隣に座った。

那月君は、突然片方の手で顔を隠すように覆った。

どうしたの?

もう一度名前を呼んで顔を覗き込もうとすると、突然抱き寄せられた。


「……彼シャツにときめく男の気持ちがわかりました」


な、那月君?

意味のわからないことを呟いて、私の首筋に顔を埋める那月君。

息がかかって、くすぐったい。


「なんか……やばいです。いつもしっかりしてる先輩が、俺の家でこんな無防備な姿になってるの」


一体なにがどうやばいのか。

とにかく様子のおかしい那月君に強く抱きしめられて、身動きが取れない。

無防備って……私、そんなにだらしない顔してた?

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