【完】悪名高い高嶺の花の素顔は、一途で、恋愛初心者で。
お母さんもお姉ちゃんも、昔から私に対して異常なほど過保護だった。それを嫌だと思ったことはないし、ありがたく思っているけど……正直、実家に戻るという選択肢は私にはなかった。
過去、ストーカーなどの被害に遭うことがあり、私の一人暮らしを心配しているということも理解している。
みんなの気持ちを考えると、私が戻ることが一番いい選択なんだろうけど……もしこのことが会社に知れて、変な噂がたったら困る。私はひとりの社員として認められたいから、左五郎さんとの関係は秘密にしたい。
みんなには、申し訳ないけれど……。
手を洗って、部屋に戻ろうと歩き出した。
その時、ポケットに入っていたスマホが震えた。
電話?
あ、那月くんから……。
画面に映し出された名前を見て、慌てて電話をとった。
「も、もしもし?」
『もしもし先輩?今大丈夫ですか?』
「うん!大丈夫」
電話越しに聞こえる那月君の声に、嬉しくなって声のトーンが上がってしまう。
先ほどまでの重たかった気分は何処へやら、那月君からの電話が来たというだけで、自然と口角が上がってしまう。
『先輩、俺の家に忘れものしてたみたいで……多分企画の資料みたいなんですけど』
「えっ、ほんとに?ごめんなさい……!」
『俺は大丈夫です。会社で渡してもいいんですけど俺月曜日外回りなんです。火曜日になっても平気ですか?』
昨日会社から持って帰ってきた資料って、確か月曜日の会議に使う資料だったような……。