イジワル副社長と秘密のロマンス
夏休みは始まったばかり。これからいくらでも話す機会はあるだろう。
改めて、昴じいさんの車を探す。でも、それらしき影は見つけられなかった。
時間間違えて伝えたかな。そんな疑問をよぎらせつつ、斜めがけしたバッグから携帯電話を取り出そうとした時、遠くで「樹君!」と声があがった。
懐かしさを覚えながら、声の主をちらりと見た。
「樹君! 本物だ! わあっ! 樹君だっ! 樹君っ!」
千花が笑顔で俺の名を連呼する。懐かしさが消え失せ、照れくささが増幅する。
「じゃあね。またね!」
友人らしき三人にそう告げ、千花が俺の方へ走ってくる。思わず逃げてしまいたくなるくらいの、全速力で。
「久しぶり! 元気だっ……えっ」
俺の目の前に立つと同時に、千花が驚いた顔をした。
「うそ。去年は私の方が、背高かったのに! 勝ってたのに!」
俺を見上げてそんなことを言うから、俺も彼女を見降ろしながらしっかりと訂正を入れる。
「いつまでも小さいままだと思わないでよね……って、去年はほぼ同じだった。負けてない」
言葉を返すと、千花がきょとんとし、そしてちょっぴり頬を赤らめた。
「……去年と、声が違う気がする」
「あぁ。声変わりしたから」
「……そうなんだ。樹君、すっかり大人っぽくなっちゃって、驚いてる」
「それは俺も同じ。千花も大人っぽくなったよね……」