イジワル副社長と秘密のロマンス

夏休みは始まったばかり。これからいくらでも話す機会はあるだろう。

改めて、昴じいさんの車を探す。でも、それらしき影は見つけられなかった。

時間間違えて伝えたかな。そんな疑問をよぎらせつつ、斜めがけしたバッグから携帯電話を取り出そうとした時、遠くで「樹君!」と声があがった。

懐かしさを覚えながら、声の主をちらりと見た。


「樹君! 本物だ! わあっ! 樹君だっ! 樹君っ!」


千花が笑顔で俺の名を連呼する。懐かしさが消え失せ、照れくささが増幅する。


「じゃあね。またね!」


友人らしき三人にそう告げ、千花が俺の方へ走ってくる。思わず逃げてしまいたくなるくらいの、全速力で。


「久しぶり! 元気だっ……えっ」


俺の目の前に立つと同時に、千花が驚いた顔をした。


「うそ。去年は私の方が、背高かったのに! 勝ってたのに!」


俺を見上げてそんなことを言うから、俺も彼女を見降ろしながらしっかりと訂正を入れる。


「いつまでも小さいままだと思わないでよね……って、去年はほぼ同じだった。負けてない」


言葉を返すと、千花がきょとんとし、そしてちょっぴり頬を赤らめた。


「……去年と、声が違う気がする」

「あぁ。声変わりしたから」

「……そうなんだ。樹君、すっかり大人っぽくなっちゃって、驚いてる」

「それは俺も同じ。千花も大人っぽくなったよね……」



< 246 / 371 >

この作品をシェア

pagetop