イジワル副社長と秘密のロマンス
自分も拾わなくちゃと思い慌てて立ちあがったけど、ぬいぐるみが頭に乗せていた装飾物が壊れていることに気づいてしまい、足が止まってしまった。
親子は階段を上り始めた。のぼり途中で男の子は私の名刺入れを拾い上げ、恐る恐るといった様子で樹君へと差し出した。
「どうも」
声音こそ彼らしいぶっきら棒なものだったけど、樹君の口元には褒め称えるような笑みが浮かんでいた。不安そうだった男の子は緊張を解き、ちょっぴり得意げに笑い返している。
そんなやり取りを見て、私の気持ちも和んでいく。
壊れてしまったのはショックだけれど、樹君を見てるとそんな小さなことで落ち込むことも馬鹿らしく思えてくるから不思議だ。
親子は階段をのぼり始め、樹君は落とし物を探すように、辺りに視線を走らせている。
彼の所に行こうと一歩踏み出した時、樹君が機敏に顔を上げた。ほぼ同時に、ブツブツと呟く低い声も聞こえてきた。
袴田さんがおぼつかない足取りで階段を降りてくる。
「……どう言うことですか……どうしてあなたはこの男の名前を親しげに口にしているのですか……なんで……どうして……」
唖然としている樹君には目もくれず、袴田さんが私目指して一歩また一歩と近づいてくる。
蒼白な顔が徐々に真っ赤に染まっていく。急に怖くなり、私は後ずさった。