イジワル副社長と秘密のロマンス
バッグの行方を確認し、私は慌てて樹君の腕の中から飛びだした。
どうやらバッグを閉じていなかったらしい。
階段の途中途中に、財布や携帯や手帳やポーチなど自分の私物が散乱してしまっていた。
「わあっ! なんか踏んじゃった!」
階段は途中でゆるくカーブを描き、中二階フロアに繋げられている。
その曲がり角のあたりで、父親と手を繋いでいる小学校低学年くらいの男の子が驚きの声を上げた。
男の子は片足を上げ、足元の踏んでしまった何かを確認している。
そこにある物を見て、私はなかば滑り落ちるように、男の子の元へと走り寄った。
「すみませんっ! それ、落としたの私です!」
私は両ひざをついて、男の子の足元でくたりと横たわっている小さなぬいぐるみを、両手で掴み上げた。
唇を引き結ぶと、男性が「すみません。うちの子が踏んでしまったみたいで」と申し訳なさそうに話しかけてきた。
私はすぐに顔を上げ、「私こそすみません」と首を横に振った。
そして男の子が強張った表情で自分を見ていることに気が付き、言葉をかける代わりに笑みを浮かべた。
「一応確認するけど、これとか、それとか、全部千花のだよね?」
樹君が階段に落ちている私の持ち物を拾い上げてくれている。