宛先は天国ですか?



「おじいちゃん、ただいま」

テレビの方を向く祖父に声をかけると、祖父は振り向きざまに「おかえり」と言った。

「早く着替え来なさい、待ってるから」

ゆっくりとテレビの方に向き直しながら、祖父はわたしにそう言った。

それに対して「はい」とはっきり返事をしたわたしは、荷物を持ったまま自室へと向かった。


小さな一軒家の、2階奥にあるわたしの部屋。

プラスチックの古いプレートには、ひらがなでわたしの名前が書かれている。


部屋の中にあらかじめ用意してあった私服にさっさと着替えたわたしは、荷物をほかったままリビングへと向かった。

わたしが来た瞬間に、祖父はゆっくりと食事の並べられた机の方へ移る。

それから手を合わせて、2人そろっていただきますをした。


「それにしても、今日は遅かったな」

おかずをつまみながら、祖父がふとそんなことを口にする。

「居残り、してたからね」

嘘とも本当とも言えない事実を、サラッと口にする。

祖父はそうかと言ってわたしを見たあと、

「なんにせよ、なるべく早く帰ってくるんだぞ」

そう言って優しく微笑んだ。

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