肉食系御曹司の餌食になりました

支社長は観察するような視線を、私の顔にさまよわせている。

彼の結論がどっちに転ぶのかとヒヤヒヤしながら、引きつりそうになる笑顔を必死にキープしていた。

お願い、人違いということにして!と心で叫んだら、支社長は硬い表情をフッと緩め、自嘲気味な笑みを浮かべた。


「すみません、知り合いによく似ていたものですから」


掴まれていた手首も離され、心の中でホッと溜息をつく。

でも、まだ完全には安心できない。再び同じ疑問を持たれないように、予防線を張っておかないと。

そう考えた私は悪女っぽい笑顔とシナを作り、手を伸ばして彼の髪に触れた。

その手をゆっくりと下降させ、頬をくすぐるように撫で下ろし、わざと可愛くない言葉を口にする。


「よくいるのよ、そういうふうに声をかけてくる男の人が。悪いけど、そういうのには飽き飽きなの。

ストレートに君に興味があると言われていたら、一晩くらい付き合ってあげたかもしれないのに。残念ね、イケメン紳士のお客さん」


嫌な女だと思って、もうこの店に来ないでくれたら……。

そう考えての言葉と態度だったのに、支社長の反応は私の期待するものと違っていた。

失礼なこの手も払わず、一度目を伏せてからクスリと笑い、落ち着いた大人の口調で私を焦らせる。


「ストレートに……ですか。それなら、そうさせてもらいます。
アン、あなたのシルクのような美しい歌声に聴き惚れました。また来ますので、私の顔を覚えていて下さい」


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