aeRial lovErs
「新人、ずいぶん調子良いみたいじゃないか。」

菱沼が、格納庫の片隅に有る休憩所で紙コップの紅茶をすすりながら言う。

高崎は私との模擬戦の後5日で7回模擬戦をこなした。

私の前に2回やっているから合計10回の模擬戦を行った事になる。

戦績は9勝1負。

迷惑な話しだ。

おかげで基地のあちこちに、私が再び戦闘機に乗ると云う噂が飛んでいた。

「良いみたいだな。」

「興味無いのか?」

「悪く無い乗り手だとは思う。」

「で。」

「それだけだな。」

菱沼はやれやれと肩を竦める。

「白い死神も今はカモメさんか。」

「そうだな。」

あえて気の無い返事をしていたのだが、どうやら菱沼の気に障ったらしく、ムスリとしている。

「私と訓練した時は、高崎も気を抜いていたらしいから、実際の所全勝だよ。」

菱沼は、眉をひそめたまま右目を細くしてこちらを見る。

「へえ、三島が誰かの肩を持つなんて珍しい事も有るもんだ。」

「菱沼も良い乗り手だって言ってただろ。」

「まあいいわ、やはり噂は嘘のようだな、期待はして無かったけど。」

まあ、そんな事だろうとは思った。

むしろ、直接戻れと言わないだけ成長したのではないか。

あるいは、変に粘っこくなった分、悪質になった気もするが。

「白い死神とか云う恥ずかしい名前でよばれていい気になってた男には、もう戦闘機で一線に出る腕は無いよ。」

自分でも自嘲気味だと自覚する。

「何度も言うが、今は偵察より戦闘機に乗ってデモンストレーションしてた方が安全だぞ・・・まあ聞かないだろうけど。」

「有り難う、けどやはり戦闘機に乗る予定は無いな。」

「分かってるよ、言ってみただけだ。」

菱沼は、紙コップの中身を飲み干すとゴミ箱に投げ入れた。
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