たったひとつの恋をください




あのとき、どうして倒れたのか。何に怯えていたのか。


訊きたかったけど、なんとなくできなかった。訊いたらいけない気がした。


ちょっとした貧血かもしれない。いいじゃん、とにかく元気になってくれたんだから。そう自分に言い聞かせて。


「もしかして、待ってる人って……」


琴里が顔を寄せて、興味津々に尋ねてくるから、


「太一じゃないからね?」


すかさず否定した。そこはもうきっぱりと。


「なーんだあ。つまんなーい」


「つまんないって……やっぱり面白がってる」


「あはは。だって、二人が付き合ったら楽しそうだなって思うもん」


「楽しいとか楽しくないとかでそんなの決めないよ」


「ふーん?じゃあ、何で決めるの?」


何気ない一言に、ドキリとする。


なんだか、試されてるみたいで。


だけどすぐに、そんなわけないと思い直す。



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