不器用男子に溺愛されて

「もう、何なんですか。教えてくれたっていいじゃないですか」

 何がおかしいのか、くすくすと笑い続ける佐伯さんが気になり、私がそう訴える。すると、佐伯さんは「知りたい?」と言って悪戯な笑みを浮かべた。私はもちろん、大きく首を縦に振り知りたいという意思表示をしてみせる。

 すると、どうしたことか佐伯さんの口元が私の耳まで近づき、佐伯さんはまるで囁くように小さな声で「ちょっと廊下で話そうか」と発した。

「なっ」

 耳元に少しの吐息がかかり、驚いた私は耳を押さえ、佐伯さんの行動に困惑しつつも首を縦に振り大人しく佐伯さんに続いて廊下に出た。

 幸い、隣の席で作業をしていたはずの咲ちゃんはいつの間にか席をはずしていた。そのことにほっとしつつ、廊下へ出た私は、佐伯さんの後ろをついて歩きながら佐伯さんに問いかけた。

「どうして理久くん怒っちゃったんですか?」

「しーっ。多分、すぐに分かるから」

 私の問いかけに佐伯さんは人差し指を立ててそう言った。私は、その佐伯さんに言われるがまま、人気の少ない廊下の隅っこでその時を待つ。

 こんな事で何が分かるのだろうか、と疑問に思っていたその時。

「おっ、本当に来た」

 目の前に立つ佐伯さんが、私の背後に目を向けてニヤリと笑った。

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