王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです

これで彼女はこのまま確実にバルバーニ皇帝の手に落ちてしまうだろう。

卑怯な者の思い通りにされるのは彼女の望むところではなかったが、今はなす術がない。

ラナが青い目を吊り上げてマクシムを睨むので、彼は身の潔白を証明するように両手を挙げた。


「だけど仕方がないよ。皇帝様はいろいろな連中をけしかけて、どうやったって王女様を手に入れようとしているんだから。きみは今回でなくても、いずれ必ず捕まったさ」


おそらくギルモア公国の港で彼女を攫おうとした盗賊も、王城でラナの食事に毒を混入した者も、キャンベルでエドワードを暗殺しようとした麦わら帽子の男も、皆そうやって皇帝に話を持ちかけられた人たちなのだ。

マクシムはこれが運命だったのだとラナを慰めるように言うけれど、だからといって到底納得できるはずもなかった。


「ま、俺たちはその中でも運の強い隊商だったってことだな。これでがっぽり報酬がもらえるぜ」


青年は財宝でも掘り当てたかのようにニヤニヤと頬を緩ませ、隣に座る相棒の肩を抱いて豪快に笑う。

シェノールの身体を仮死状態にした薬は大方抜けていたが、彼はそれでもまだ少し心臓が縮むような気がしていた。

死ぬのは一回きりでごめんだと思う。

ラナは絶望感に苛まれながら、エドワードのことを思っていた。

今頃彼はどうしているだろう。

平和ボケが過ぎると、ラナのことを怒っているだろうか。

それとも呆れて、もう見捨ててしまおうと思っているだろうか。

彼とライアンはなにやらバルバーニ帝国に対抗するための計画を練っていたようだけれど、ラナはそれを邪魔してしまっているのではないだろうか。

疾走する馬車から突き落とされたルザの怪我も気になった。
< 110 / 177 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop