呆れるほど恋してる。
順に連れてこられたのは、お洒落なバー。


「時間がないから、身近な場所になってしまったけど」

そう言って順は笑う。

「いえ!全然!」

素敵な場所。

言葉を紡ごうとするが、なぜか上手く言葉にできなぃ。

こんな経験初めてだ。


「せりさんは、お酒何が好きなの?」


メニューを開きながら、順はせりに尋ねる。


「私ですか?」


「うん」


「甘いのが好きです」


「そうなんだ」


「ベリーニとか」


「じゃあ、ベリーニ頼もう」


彼は、マスターにせりの分と自分の分を頼んだ。


しばらく沈黙が続く。


気まずい訳ではない。


居心地が悪い訳ではない。


なぜか、会話をしなくても一緒にいるだけで安心した。


こんなこと初めてだ。


得体の知れない人と一緒に居心地がいいなんて。


お酒を出されてからも特に会話をすることはなかった。


罪悪感は消えていた。


「せりさんは、普段何してるの?」


「普段ですか?」


「うん。仕事がない日」


「うーん。仕事の勉強したり、ネイルしたりかなぁ」


「そうなんだ。確かに爪綺麗だもんね」


手を取られ、まじまじと眺められると気恥ずかしくなってくる。


「順さんは、普段何をされてるんですか?」


「俺は、仕事ばっか。時々お酒って感じ」


ウォッカをロックで飲んでいるあたり、お酒が好きなのは間違いなさそうだ。


そんなことをしているうちに、あっという間に約束の1時間は過ぎた。


帰らなくちゃ。


そう腰を上げようとするが、体が動かない。


まるで、何か薬を入れられてしまったかのように視線が順から外すことができない。


それは向こうも同じだった。


「ごめん。もう少し……」


手をつながれる。


酔っているからじゃない。


明日の仕事、どうしよう。


そう思いながら、夜が更けていく。


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