呆れるほど恋してる。
「あー、本当にバカ」
業務が全て終わった後、せりは深いため息をついた。
「店長、大丈夫ですか?」
スタッフの女の子が心配そうに、顔を覗き込まれる。
「大丈夫。本当に申し訳ない……」
「たった1回の遅刻で引きずりすぎですよ。体調不良なんて、誰にでもあることですし。店長は頑張りすぎなんですよ」
体調不良だったということにして、誤魔化した。
昨夜のことを正直に言う必要もないのだけれど、嘘をついたという罪悪感が尚更自己嫌悪のループに陥ってしまう。
「明日は本部の会議でしたよね?」
スタッフの子に言われ、せりはスケジュール帳を確認した。
「本当だ……」
月に1回の店長会議で、売り上げのチェックと表彰があるのだ。
せりのいる店舗はデータ上で1位を何月も連続で取っているので、明日もきっと表彰されるだろう。
「みんなの憧れなんですから、しっかりしてください。らしくないですよ」
「うーん。ありがとう」
励まされてなんとか持ち直す。
「今日はあがりましょ」
「ありがとう」
お礼を言って帰路につく。
「その顔グッとくる」
急に順に言われた言葉を思い出して、赤面する。
あんなこと言われたことない。
大人しそうな顔をして、情熱的な夜だった。
昨夜のことは忘れればいい。
連絡先だって聞かなかった。
教えなかった。
だから、気にする必要はない。
今日の穴埋めではないが、明日から頑張らなくては。
表彰されたからと言って、油断してはあっという間に抜かれてしまう。
そんな時間はない。