呆れるほど恋してる。




目が覚めて、呆然とする。


ち、遅刻だ!


出勤時間は、10時。


今の時刻。


9時55分。


職場まで電車でどう頑張っても40分。


遅刻決定。


横で順が気持ちよさそうに寝ている。


昨夜の情事を思い出して、少しばかり恥ずかしくなった。


激しく求め合った。


後悔はない。


そんな事よりも、店長である自分が遅刻するなんて問題外だ。


最近スタッフの女の子に「時間を守れないのは社会人失格だよ」と注意したばかりなのに。


慌てて洋服を着る。


シャワーは昨夜浴びたから大丈夫。


服は、在庫の中から買い取って着れば大丈夫。


今日が新作の搬入の日で良かった。


メイクは……。


電車の中でいい。


ああ、どんどん情けない方向へ向かっていく。


準備ができて、部屋を出る。


そして気がつく。


あ、連絡先を聞くのもメモを置くのも忘れた。


しばらく立ち止まって、どうしようか考えたが伝えるのは諦める。


一夜だけの関係だ。


無理に繋げる必要もない。


ヒールの音が絨毯の中に吸収される。


エレベーターが来る音がして、せりは扉の奥へと乗り込んだ。


昨夜のことは自分の中に秘めればいいのだ。


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