クールな公爵様のゆゆしき恋情
「エステルが驚く様な特別なものは無いんですよ。湖の別宅はおばあ様がお住まいになっていた家なんです」

「おばあ様って、先の辺境伯夫人が?」

「そうです。おじい様が亡くなった後に移り住んで亡くなるまで暮らしていました」

私のお父様――おばあ様にとっては息子になる現在の辺境伯がアンテス家の当主になった時、おばあ様は直ぐにお城を出てしまったそうです。

新しくアンテスのお城の女主人になるお母様に遠慮した事も有るのかもしれませんが、元々自由にのんびり暮らしたい欲求が強かったと本人は言っていました。

お父様が心配するのであまり遠くへは行けませんから、手ごろな場所に屋敷を建てて気ままに楽しく暮らしていたのです。

「権力より自由な暮らしを選ぶなんて、ご自分のやりたい事がはっきりとしていた方なんでしょうね。私もお会いしたかったわ」

「そうですね、エステルにも会って欲しかったです。おばあ様はとても素敵な人でしたよ、私は大好きでした」

「それでラウラはおばあ様が残したお屋敷に住みたいのね?」

「おばあ様が亡くなった後、時々管理はして貰っているんです。でも人が住まないと家は傷みやすくなりますから。お父様にアンテスに戻ったらおばあ様のお屋敷に住みたいと話したら少し渋りましたけど、最終的には許して貰えました」

「辺境伯様が渋るのも分かるわ。王都から引き上げただけでなく、アンテス城からも出て別宅に引きこもってしまったら、本当に縁談が無くなってしまうもの」

私もそれは分かっているので頷きました。

「お父様は私の政略結婚はもう諦めているようです。でもこの先もずっと独身でいるのは問題だと思っているようでした」

「そりゃあそうよ」

「私は気にしていないのに」

「少しは気にしなさいよ!」

エステルが勢い良く言います。

初めは腫れ物に触れるようだった扱いが、今ではすっかり消えています。その方が私も気楽で助かります。

エステルは私の結婚観に見切りを付けたのか話題を変えてきました。馬車の窓の外を指差しながら言います。
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