クールな公爵様のゆゆしき恋情
「ねえ、あそこに見える橋はどこへ向かっているの?」

「あれは西の霊峰へ続く橋です。霊峰はとても神秘的で神々しい所です。エステルにも一度見せてあげたいです。でも距離が有って簡単には行けないから……」

アンテスに来たのなら是非見ておきたい名所と言えますが、かなり遠い為、別宅に行く様に気楽には行けません。
王女のエステルが行く為には安全対策が必要でしょうし。

考え込んでいるとエステルは別の方向を指して言いました。

「ねえ、向こうに見える大きな街道はどこへ向かっているの? 王都とは反対方向だけれど」

「ああ、あれは北の港へ向かう道です。港には沢山の船が有りその光景は圧巻ですよ。王都には海は有りませんからエステルには特に新鮮に見えると思います」

港にも連れて行ってるあげたいのですが、やはり距離が有りますし、他国との交易の場ですから、大勢の人が行き交っています。霊峰に行くより安全の配慮が必要になります。

「海……お城から少し見えるけど、側で見たらまた違っているんでしょうね」

エステルはうっとりとした様子で言います。それから笑顔になって宣言しました。

「決めた。レオンに頼んで霊峰と海、どちらも連れて行ってもらうわ!」

「え……でもお兄様はお仕事が……」

「大丈夫。上手く調整して貰うわ。仕事の出来る男は時間も上手く使えるはずよ」

「そ、そうなんだ……」

勢いに押されて私は引き下がりました。

宣言通りきっとお兄様は必死で仕事を片付けて、ヨロヨロになりながらもエステルの望みを叶えるでしょう。そんな未来が見えるようです。

お兄様は本当にエステルを大切に想っていますから。それにエステルも本当に無理だと思う事は無理強いしないはずです。

分かり合う二人。……なんだか羨ましいです。

少し寂しい気持ちになりながら、それでも楽しくおしゃべりを続け、気が付けば馬車はおばあ様の別宅に到着しました。

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